良質のドキュメンタリー映画のような幕末記「王政復古 慶応三年十二月九日の政変」井上勲・著

幕末から明治維新へ。
多彩な登場人物と出来事に
事欠かないこの時代は
たくさんの小説や歴史書
なってきました。
その中でも
本書は感銘深い一冊です。
大政奉還に向かって多重に
動いていく時代のダイナミズムを
みごとに活写しています。
登場人物たちの
深謀遠慮や思惑の絡み合いを
明晰なロジックス(つながり)を
もった物語として再構築しています。
つぎのような最初の書き出しからし
ワクワクさせられます。

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嘉永六(1853)年、癸丑の年の六月三日に、
ペリーの黒船が浦賀の沖に錨をおろした。
六月三日は旧暦の日付で太陽暦では七月八日、
夏のはじめの長雨がやみはじめて大気がうち
に熱をはらむ、そうした日の夕暮れである。
この日から幕末・維新の動乱がはじまった。
日本の近代がはじまった。

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小説のように冗長な思い入れもなく
ふつうの歴史書のように無味乾燥でもなく
良質のドキュメンタリー映画を見るように
一気に読むことができました。

王政復古―慶応3年12月9日の政変 (中公新書)

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