集団のパフォーマンスを上げる。人材開発論として読みました。 「街場の教育論」
街場シリーズ最新刊。今回はご自身のフィールドである
教育がテーマになっています。
かなり変てこな教育論だったと思いますけど、
「まあ、そういう考え方もあるよね」と思っていただければ、
それで十分です。〜後書きより〜
かなり変てこどころか、納得しながら読みました。
とくに私には、(私だけではないと思いますが)
内田教授が説く”教育が抱える問題”と今の”企業が抱える問題”が、
かなりダブって見えました。
教育制度を「新品と取り替えること」は不可能です。
不可能である以上、「教育改革」というのは、
「ありもの」の機構と「ありもの」の教員の潜在的なパフォーマンスを
どうやって最大化するかという国民的課題に収斂します。
説明するまでもなく、この「教育」を「企業」と言いかえてみると
従来の組織を引き受けながら、なおかつ組織の変革に
直面する企業経営者の姿を重ね合わせることができます。
経営戦略、人材開発プログラムのお手伝いをしていて分かることは
経営者の方の多くが、「人材」及び「人材の集合体」である組織に
いきづまりを感じているということ。
テイラー、ウエーバーらによって提示された近代経営、
縦割型管理組織からフラットなオープンソース組織、ネットワーク型
の仕事モデルへの変革を提言する書物やセミナーは数多く出回っています。
アメリカ企業の成功事例を見ることもできます。
ただし、これまで連綿と継続してきたオフィシャル、アンオフィシャルの
「ありもの」の人と組織をかえる(イノベーション)ことは、
そんなにたやすいことではありません。
中には、単に人事制度を新しいものにしたり、部署の入れ替えや増減を
することと戦略とを混同しておられる経営者もいます。
とくに今は、
営業利益減→営業費用削減→固定&流動の人件費削減→人員削減
ということが余りにも安易に行われいるように思います。
たしかに大変です。
大変ですが、こういう時だからこそ、組織のゴール(何のために
何を、どうする)を見据えた経営者のスコープ、そして戦略を
社員に示し、一緒に戦う態度を示すことが重要だと思います。
組織イノベーションや人材開発をお手伝いする立場からしますと
今、こういう時だからこそ戦略と人、それも団体戦を戦う体力と
戦力の自主トレを続けることだと思います。
総売上が20%減っても営業収益で黒字を出す、給与が10%減っても
その会社で働く気持ちが落ちない、そういう組織と人をつくっておくこと。
ワークシェアリングというのは、単に仕事を分け合うのではなく
働くモチベーションをシェアしない限り長続きはしません。
そして、組織と人のイノベーションというのは
その組織が「新品」ではない限り、「ありもの」を良く理解し
良く生かしながら、コツコツとやっていくこと。
つまり、内田さん言うところの「集団のパフォーマス」を上げることが
重要だと思います。
本書で内田さんは、複数の人材採用担当者の次のような話を引用。
真にビジネスライクなビジネスマンは、
「個人的能力はそれほど高くないが、周りのパフォーマンスを
上げることができる」タイプの人を、個人的能力は高いが、
強調性に欠けるタイプの人より優先的に採用します。
そして、この後に引用文の具体的な説明が続きます。
いつも100点をとるヤマダくんよりも、
自分は80点しかとれないけれど、仲間のサトウくんを
指導して30点とれるようにしたスズキくんの方が
(組織の中では)上位に格付けされる。
スズキくんには、「彼の支援でパフォーマンスが上がった人の
点数が加算される」
あのリーマン破綻も「俺だけ100点満点、年収5000万円」ということが
遠因になったのではという見方もできます。
この他、コミュニケーション、日本語、宗教にまで話はおよび
内田さん独特のインサイトが展開されます。
本書は学校の先生たちに向けた「学校の先生たちが元気になるような本」
という設定ですが、私には、集団のパフォーマンスをあげる
人材開発、組織マネジメントの参考書として、いろいろ考えさせられる一冊でした。
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